一般社団法人 岐阜県林業経営者協会

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2012年9月号

『雑木』に未来はあるか                河尻和憲のぼやき

雑木とは

 5月に投稿された桑原善吉氏の『銘木』とは対極をなす内容になるが、今回は一般に『雑木(ぞうき)』と呼ばれる広葉樹について述べさせていただく。

広葉樹の中でもトチノキ、ケヤキなどは銘木と呼ばれるものが多いが、その他の広葉樹はなぜ『雑木』と呼ばれるのか?書物によると「雑木とは木材としてはあまり利用価値のない種々雑多な樹木の総称」とある。『雑魚』『雑草』などと同様、人間の身勝手な言い方であり、木々たちにとっては不名誉な言葉であるが、その種類の多さや性格の多様性がかえって人間(日本人)にとって使いづらいものになってしまい、その結果、十把一絡に『雑な木』と呼ばれるようになったのではないか。

雑木の現状──国産広葉樹の供給は?

弊社では製紙用チップ生産のため原木を年間2万トン以上使用する。私が家業を継いだ12年前は、入荷する広葉樹と針葉樹の比率は64であったが、現在では逆転し19で圧倒的に針葉樹、とりわけスギ、ヒノキの間伐材がその量の大部分を占めている。このように広葉樹入荷量が減ったのは国産広葉樹チップ価格が大幅に下落したことが最大の要因であるが、それ以外にも理由がありそうだ。

現状の国や県の林業施策は、そのほとんどが人工林の森林整備に伴う材の搬出や利用が対象となっている。森林面積の大半を占有しているこれらの人工林の荒廃を防ぎ整備することが、如何に重要であることは言うまでもない。しかし一方で広葉樹林は、生態系が豊かであるとの観点から、「保護」というと聞こえはいいが、要は手をつけないことが良しとされ、材の利用あるいは森林整備にはスギ、ヒノキのような手厚い補助は皆無に近い。その結果、広葉樹林は森林組合など大規模林業事業体には見向きもされず、搬出する道のない、かといって架線集材では到底採算の取れない奥山か、点在して里山に残されることになった。

また、かつて無尽蔵と言えるほど広葉樹の蓄積があった飛騨地方でさえ、今や大多数の家具メーカーは輸入材に依存している。確かに北海道、東北の一部を除く国産広葉樹の大半は戦後の大規模皆伐後の二次林のため、まだ若い。燃料革命により一時は衰退した薪も最近見直されつつあるが、そのようなバイオマス利用はともかく、それ以外の材の利用は、このまま極相林になるまで待たなければならないのか?そうなるまでに日本の広葉樹は『材』としての利用は消滅してしまうだろう。そして老齢となったナラ類はカシノナガキクイムシの攻撃にさらされる。林業の『林』とは針葉樹だけが対象ではないと思うのだが。

より高い付加価値を求めて

そのような現状にある広葉樹だが、一つ以前から感じていた疑問があった。ここ岐阜県飛騨南部は温帯林と冷温帯林の境界に位置するため、数多くの広葉樹が生育している。個々には様々な表情も持つ広葉樹がチップ材として入荷し、種類を問わず細かく砕かれ、紙の原料へと変わっていく。紙になること自体、有効利用であり否定はしないが、素性の良い大径木までもがその形を変え小さな欠片になってゆくのは何かもったいない。もっと付加価値を見い出せないか?もっとそれぞれの木の個性を活かせる何かがないか?

その具体的な答えが出せぬまま板材としてストックし続けた広葉樹は40数種類にもなった。そんな折、前に勤務していた会社の上司が下呂温泉に旅行に来られ、酒の席でそれを話したところ、それを見かねたその上司は一人のデザイナーを紹介してくれた。さらにそのデザイナーからインテリア界では重鎮的存在であるプロデューサーを紹介いただき、雑木をインテリア素材として使うという、本来タブー視されてきたプロジェクトが本格的に始まった。

個々の樹木特性の差、反り・曲がりなど数々の難題があるため 今まで低質材と言われた『雑木』も銘木に劣らない実に多くの色と肌触りがある。そしてそれぞれが持っている自分の個性、特徴を寄せ集めることで単独の木では成し得なかったユニークな風合いが醸し出せるのではないか?こんなコンセプトから始まったインテリア開発は、トレーサビリティーが明確な飛騨産広葉樹を使うこと、そしてMade In Gifu(Hida)に拘り、試作を終え来年いよいよ世に出す予定である。

しかし、前述したような国産広葉樹の現状を考えると、もしこの事業が軌道に乗った時、原材料不足に陥りはしないかと不安に思うのは『取らぬ狸の皮算用』か?まだまだ広葉樹については述べたいところではあるが、続きはまた1年後ということに。その時は今述べたようなことが大きく様変わりしているかもしれない。